
哲学と教育をつなぐ推論ネットワーク
- 白川 晋太郎
- SHIRAKAWA Shintaro
- 教育学部 講師(哲学、倫理学)
Profile
岐阜県出身。2010年、京都大学文学部哲学基礎文化学系哲学専修卒業。2013年、京都大学大学院文学研究科思想文化学専攻哲学専修修士課程修了。2019年、京都大学大学院文学研究科思想文化学専攻哲学専修博士後期課修了。日本学術振興会特別研究員、大学の非常勤講師などを経て2022年、福井大学教育学部講師に着任、現在に至る。
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道徳教育を哲学でアプローチする
大劇場のステージに立つことを夢見る売れない手品師が、父親が亡くなり母親は働きに出ていて、寂しいという男の子に出会う。手品を見せると、男の子は元気を出し「明日も来てくれる?」と訊ね、手品師は「来るとも」と約束。その夜、友人から明日、大劇場に出演しないかと誘いが。夢の実現と男の子との約束。手品師は迷った末、友人の誘いを断る。
この『手品師』を使った道徳の授業では、生徒に「あなたが手品師だったらどうする?」と問いかけます。生徒からは「約束を破るのは悪いことだから出演しない」、「自分の夢の実現は重要だから出演する」、「みんなが幸せになるため男の子のことは児童相談所のプロに任せ、自分は出演する」など異なる価値観にもとづき意見が出され、これらの論議を、私の研究している推論主義などの哲学から考えます。
推論というのはそれぞれの状況での言葉と言葉の関係といった意味で、他者とのやりとりの際には自分の推論は維持しつつ相手を理解するのではなく、相手の推論のもとで理解し把握することが求められます。論議を通じて、児童らの意見は集約されるかもしれないし、分かれたままかもしれません。しかし、感情的対立や言いっぱなしに陥ることなく、共感や合意はできないが理解や尊重はできる関係性にたどり着けるのではないでしょうか。こうした推論ネットワークを構成する能力は、社会規範の担い手となるためにも重要であると考え、道徳の授業の中に取り入れる方法を探っています。

主体的に推論を練り上げる記者会見スタイル授業
決まりごとへの「なぜ」から
私が「規範」について気になり始めたのは、保育園にさかのぼります。決められた場所になぜ行かなければならないのか、駄々をこねていました。今思えば周囲の大人はよく受け止めてくれたと思います。その時の違和感が、「規範」への問題意識となり、ものごとの意味自体を考えるようになり、大学で哲学を専攻することにつながりました。実際の社会ではなかなか難しいことではありますが、自分とは異なる論を拒否せず許容することで、理解の幅が広がり異質な他者とのコミュニケーションが可能となる。哲学は実は社会性を鍛える学問なのです。
生成AIのChatGPT。日々賢くなる友人ができて喜んでいます(そのうち相手にされなくなるかもしれませんが)。
